リテンションマーケティングとは
リテンションマーケティングの説明の前に、リテンション(retention)とは何蚊を理解しておく必要があります。「リテンション」には、「保持」「維持」といった意味があります。
人材の定着を試みる活動のことをリテンションと呼ぶこともありますが、「リテンションマーケティング」とは、既存顧客に対して継続的な関係を維持していくためのマーケティング活動のことを指します。
具体的には、メルマガやDMの配信、SMS送信サービスでキャンペーンの案内やイベントへの招待などの施策を行い、リピート購入や購買単価の向上を促すためのマーケティング施策です。
1:5の法則
企業がリテンションマーケティングに注力すべき背景には「1:5の法則」があります。
マーケティング活動には「新規顧客の開拓活動」と「既存顧客への継続活動」がありますが、一般的に新規の顧客を獲得するには、既存顧客を維持するよりも5倍のコストがかかると言われています。
また、良好な関係を維持することによって、既存顧客がファンやロイヤルカスタマーになってくれれば、新規顧客の呼び水となる可能性もあります。
もちろん、事業の発展には新規顧客の獲得も欠かせません。両者の施策のバランスを考えながら進めていくことが大事です。
CRMを活用したリテンションマーケティング
リテンション・マーケティングに欠かせないツールとなっているのが、CRM(Customer Relationship Management)です。
CRM(顧客関係管理)とは、顧客情報を一元管理することで、顧客との関係性を維持・向上させるアプローチ、およびその目的のために開発されたツールを指します。
顧客情報を一元管理・リアルタイム共有できることから、さまざまな企業でCRMツールの導入が進んでいます。
リテンションマーケティングを実施するメリット
リテンションマーケティングを実施する上でのメリットを確認していきましょう。
LTVの向上
リテンション・マーケティングの最大のメリットは、「LTV(Life Time Value)」の最大化です。LTV(Life Time Value)とは、「顧客生涯価値」と呼ばれ、一人の顧客が生涯のうちで企業に対してもたらす利益を表します。
リテンションマーケティングによって、リピーターが増えると、将来的な収益性を考える指標であるLTVが向上します。
LTVは、既存顧客との関係管理を重んじるCRMの考え方とも密接に関係しています。自社の商品やサービスへのロイヤルティを高めたり、自社のブランド力を強化することによって、CRMの施策が円滑に回り、結果としてLTVを高めることにつながるのです。
優良顧客の育成
顧客ニーズに合わせた丁寧なコミュニケーションを実現することで、よりクラスの高い商品を選んでもらったり(アップセル)、関連商品を合わせ買いしてもらったり(クロスセル)といった形で顧客単価を上げることができます。
こうしてより購入金額の大きい優良顧客を増やすことができると、利益率が向上して経営の安定が望めます。
さらに、優良顧客を優遇する、特別な体験を提供するといった取り組みによって、信頼感や愛着を持って企業を支持してくれるロイヤルカスタマーを育てることも可能です。
休眠顧客の掘り起こし
リテンションマーケティングでは、しばらく利用のない休眠顧客にアプローチし続けることによって、再び自社に目を向けてもらうきっかけをつくることができます。
休眠顧客は過去に自社の製品やサービスに興味や関心を抱き、購入に至った顧客です。そのため、なぜ利用を辞めてしまったのか、顧客のデータをもとに、特典やキャンペーン情報の送付といったコミュニケーションを継続しながら、粘り強くアプローチします。
ボトルネックとなる原因を探り解決策を提案することで、将来的に優良顧客になる可能性を秘めています。
既存顧客からのフィードバック
長期的にサービスや商品を使い続けてくださっている顧客からは、実際に使用してきた生活者ならではの意見や指摘をフィードバックとして受けられることがあります。
そのフィードバックはサービス改善・新製品開発などのヒントになり得ます。得たフィードバックをもとに、新たな施策やマーケティング活動に活かすようにしましょう。
新規顧客獲得がしやすくなる
リテンション施策を通じて既存顧客の満足度やロイヤリティを高めることは、新規顧客獲得にも大きく貢献します。
自社やブランドや商品のファンになると、その顧客は継続的に購入してくれるだけでなく、口コミやSNSで第3者に商品を紹介してくれる可能性があります。
その結果、コストをかけずに新規顧客を獲得することができるのです。
リテンションマーケティングを成功させる3つのポイント
リテンションマーケティングを成功させるためのポイントを3つ紹介します。
データを収集・分析し、顧客理解を深める
リテンションマーケティングを成功に導くためには、データを収集・分析し、顧客について深く知ることが欠かせません。
属性や購入履歴、現在のステータスなどをデータを元に分析していきます。しかし、企業によっては集めたデータが膨大になり、分析に時間やコストがかかりすぎてしまう懸念があります。データを正確に分析できなければ、活用できないどころか戦略ミスを招く可能性もあります。
そこで、リテンションマーケティングを効率よく実践するためにも、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)といったツールを活用し、作業効率化を図ることも大切です。
個々の顧客に合った訴求方法で顧客満足度を高める
データを分析し顧客理解を深めたら、一人ひとりにあった訴求方法で顧客満足度を高めるために、顧客をセグメントします。
そして、セグメントの特性や企業の意図に合わせて、情報提供やプロモーションを行います。
例えば、クロスセルやアップセルを目的として配信する優良顧客向けのメールと、サービスの利用復帰を目的として休眠顧客に対して送るメールでは、それぞれタイトルや文面などが異なってくるはずです。
それぞれの顧客が何を求めているかを見極めて、セグメントごとに施策を打つ必要があるでしょう。
近年、「カスタマイズ」や「パーソナライゼーション」がマーケティングで注目されるようになり、より個人に特化したコミュニケーションが重視されています。
リテンションマーケティングにおいても、顧客一人ひとりの特性を正確に捉え、それぞれに合った施策を行うことが重要です。
これまでの購入履歴や顧客の属性・嗜好、アクセスログなどを活用し、セグメント化することで、満足度の高いサービスを提供できるようにしましょう。
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効果測定と検証の結果を次の施策に生かす
リテンションマーケティングの施策を試した後は、効果測定が必要不可欠です。効果を検証することによって施策を振り返り、課題があればすぐに改善します。
このように、リテンションマーケティングでは、深い洞察と迅速なPDCAが重要です。顧客の声はデータに反映されます。
新たな発見を次のコミュニケーションに生かし、その結果からさらに顧客の行動や心理への理解を深め、施策の精度を高めていきます。
リテンションマーケティングの成果指標とは?
リテンションマーケティングではどのような指標で成果を評価するのかご紹介いたします。
リテンションレート
リテンションレートとはサービスの継続率や定着率のことを指し、既存顧客維持率と呼ばれることもあります。リテンションレートは以下のように求めることができます。
リテンションレート(%)=継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100
リテンションレートを測定することで、既存ユーザーと企業のつながり度合いをはかることができるため、新規ユーザーの将来的なサービスの利用時間を予測できるという点もあります。それだけでなく、リテンションレートを高めることでLTVの高めることにつながります。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスとは最近はサブスクリプション型のビジネスに使われることが多く、事業の経済性を測定する手法の一つです。
店舗・顧客・製品などのユニット単位あたりの収益性をはかるもので、先に記述したサブスクリプション型のビジネスでは1ユーザーを1ユニットとして採算をみる指標として使用していています。ユニットエコノミクスは以下のように求めることができます。
ユニットエコノミクス=LTV(顧客生涯価値)÷CAC(顧客獲得コスト)
この数値を測定することでユーザー1人あたりの経済性が数値として見えるため、さらにコストを投下して顧客数を増やすべきか、それとも収益性の改善が必要かといった経営判断がしやすくなります。
ユニットエコノミクスが適正であれば顧客獲得のコストと顧客獲得後の収益のバランスが良好で事業としてけ健全な状態であると判断できます。
リテンションマーケティングの具体的な10手法
ここではリテンションマーケティングにはどのような手法があるのか、具体的な手法をご紹介いたします。
1. メールマーケティング
メール配信を通して顧客に対してリテンションを図る手法です。メールマーケティングはメールを配信したものの、送りっぱなしになって成果につながらない可能性がある点がデメリットです。
そのため獲得したい成果・対象によって内容を熟慮し、メール送付後には開封率などのデータを取得・分析をして改善していく必要があります。
2. SMS
SNSアカウントやサイトの会員などとは違い、携帯の機種変更くらいでしか番号が変わらない電話番号を使用してメッセージを送信できるSMSはリテンションマーケティングでも有効な手段の一つとなります。
また、メールよりも開封率が高いうえに顧客データをもとに最適なメッセージを一人一人に送信することが可能であるため顧客エンゲージメントの向上にも効果があると言えます。
3. レコメンドエンジン
レコメンドエンジンは、ECサイトなどでの購入履歴や商品の閲覧履歴・購入者の属性などのデータを元にして、顧客のニーズを把握しおすすめの商品やサービスを紹介する手法です。
AmazonなどのECサイトだけでなく、最近ではYouTubeといったSNSでも顧客に合わせたおすすめの動画を表示するようになっています。こうすることにより購入単価や顧客単価をあげる効果があります。
4. SNS
SNSでのリテンションマーケティングは、継続して情報発信を顧客に向けて行う手法です。
商品紹介や商品のメンテナンス方法、SNS限定のクーポン配信などさまざまな情報を発信することで顧客満足度の向上や商品自体への関心どの維持・向上につながります。
5. プッシュ通知
スマホ画面にセール情報やクーポン配布の開始情報などといった任意のメッセージを表示する機能のことをプッシュ通知といいます。
このプッシュ通知は休眠顧客に対して効果を発揮しやすいです。アプリはインストールしたものの使用していない人や、かつて使っていたが離脱してしまった人にプッシュ通知で働きかけることで再使用を働きかけることができます。
6. リテンション広告
広告効果を計測するツールを使用して取得したユーザーデータをもとに、ユーザーに対して広告出稿をする手法です。
この手法は休眠顧客の復帰や既存顧客の利用促進を効果的に行うことができます。
7. カスタマーサポート(お客様窓口)
顧客からの問い合わせに対応する窓口をもうける手法です。サービス継続・商品のリピート購入などにはアフターフォローが重要となってきます。
購入後や契約後の疑問や不安点を解消できるサービスを提供することによって顧客満足度の向上につながり、顧客の「生の声」の収集という機能もあります。そうすることでサービス・商品の向上や新たな施策を考案する機械に活用できます。
8. カスタマーサクセス
カスタマーサポートは顧客の問い合わせに対応する手法ですが、カスタマーサクセスは顧客の事業成長や成功を目的とした顧客支援を実施する手法です。
顧客のデータをもとに事業や企業のパフォーマンス向上のためのアドバイスをおこないます。
9. 各種ツールの導入
CRMやDMP、CDPといったツールを使用することでリテンションマーケティングをより効果的に行うことができます。
CRMは顧客関係ツールとも呼ばれ、顧客の購入履歴や属性を効率よく管理できるツールです。DMPは自社で保存されている顧客情報・アクセスログ・広告配信などのデータを管理するツールで、顧客一人一人に合わせた提案を実現することが可能です。
10. オフラインイベントの開催
オフラインイベントもリテンションマーケティングに有効な手段の一つです。イベントを通してユーザー同士の交流も発生するためユーザー同士で課題を解決で出来たり、より交流が深まるた顧客ロイヤリティの向上に効果が見込まれます。
リテンションマーケティングの事例
ここで具体的にはどのようにリテンションマーケティングが行われているのか事例をご紹介いたします。
事例1<Amazon>
世界的に有名なAmazonで今後もAmazonで購入をしてもらえるようにリテンションメールを配信したり、カスタマーサービスを充実させています。
カスタマーサービスではメールでのやりとりではなく、チャットや電話で対応し、対応速度も非常に早いため安心なECサイトとして信頼されています。
事例2<マクドナルド>
マクドナルドはSNSの使い方が非常に上手と言えます。現に日本のマクドナルドのTwitterフォロワー数は500万人を超えており、Twitter上のリツイートやいいねの性質を生かしたプレゼントキャンペーンや新商品の紹介を行っています。
また、SNSから自社サイトに誘導する効果もあるため、ブランディングや広告の役割をSNSが担う形となっております。
事例3<Netflix>
サブスクリプション型の動画配信サービスであるNetflixではユーザーの視聴履歴や使用デバイス、どれくらいの時間視聴しているかなどのデータを収集・分析することで個別のユーザーごとにおすすめのコンテンツをレコメンドしています。
こうした視聴動向をユーザー全体から集めることでオリジナルコンテンツの制作にも活かし、LTV向上にも役立てています。
顧客一人ひとりに最適なリテンションマーケティングを
高齢化と人口減少が進む日本では、既存の顧客との関係を維持することが企業の成長の鍵となり、リテンション・マーケティングは現代のマーケティング戦略に欠かせない考え方の一つです。
それぞれの顧客がどんなニーズを持っているのか、どんな不満を抱えてサービス利用から離脱してしまったのかなどといった観点から顧客を深く知り、顧客ひとり一人に合わせて最適なリテンションマーケティングを展開していきましょう。